Structure of NAno Particles - 微粒子分散系プロセスにおける課題解決 - 微粒子分散系シミュレータSNAPのご紹介SNAPの射程範囲・研究会の目的と対象SNAPの射程範囲私たちはナノプロセシング・コンソーシアム,及びメソシミュレーション・コンソーシアムを経て,2014年度からSNAP研究会を立ち上げました.その間,ものづくりのニーズを把握しつつ,微粒子分散系シミュレータSNAPの開発を推進して参りました.その一方で,現場で遭遇する課題の分析やSNAPを適用した事例研究を継続することで,次のようなプロセスで遭遇する課題解決の糸口,及び今まで得難かった描像を与えうることが分かってきました. 分散・混練 / 塗布・乾燥プロセス
「分散」と「混練」の差異は意外に明確にされておらず,その理由として,混練(kneading)は分散(dispersing)と混合(mixing)と異なるからです.「分散」は基本的に液中で凝集粒子を解砕し孤立化させることです.また「混合」は異なる粒子群を混ぜて均一にすることを意味します.敢えて表現すると「分散」は液体的であり,「混合」は固体的です.そして「混練」は固液的(粘弾性)ということになります,粒子凝集には,aggregationとagglomerationの2種類があり,前者は平衡論的な凝集であり,後者は流体力(圧縮)による凝集と考えられます.濃厚系コロイド溶液にせん断をかけていくと,粘度減少(shear thinning)がみられ,更にせん断率を増すと粘度上昇(shear thickening)に転じ,その後再び粘度が低下します.この一連の現象は図に示すように関連し,粒子群の構造形成に由来していると考えられます.SNAPは粒子の性質を考慮して流動シミュレーションができるため,粒子群の構造を予測可能です. 試行錯誤からの脱却 微粒子分散液の塗布・乾燥による粒子膜の作製,あるいは液相微粒子系の凝集・分散制御や膜ろ過,こうしたメソスケール・プロセスを最適化するための試行錯誤による研究開発は限界に達しています.SNAP研究会では,複雑なプロセスの中に存在する本質的な原理を理解し,その原理に基づいてプロセスを最適化する効率的な研究開発を計算機シミュレーションを用いて支援することを目的としています. 塗布・乾燥プロセスの最適化 ナノメートルからサブミリメートル程度の大きさの球形,あるいは非球形粒子分散液を連続塗布や不連続塗布で基板上に塗布し,溶媒の乾燥によって薄膜を作製する場合,目標となる粒子系構造を作り出すプロセス条件の最適値を効率よく探索することが重要です.SNAP研究会では,与えられたプロセス条件における微粒子と気液界面の運動をシミュレーションして構造形成のダイナミクスを可視化するとともに,得られた粒子系構造を定量評価します.シミュレーション結果から塗布・乾燥プロセスにおける微粒子系の構造形成メカニズムを理解し,そのメカニズムを利用してプロセスを効率的に最適化します. 凝集・分散プロセスの最適化 ナノメートルからサブミリメートル程度の大きさの球形,あるいは非球形の液相微粒子の凝集体をビーズミル等を用いて分散させる場合,目標となる粒子サイズや微粒子分散液のレオロジー特性を作り出すプロセス条件の最適値を効率よく探索することが重要です.SNAP研究会では,与えられたプロセス条件における微粒子と溶媒の運動をシミュレーションして凝集・分散ダイナミクスを可視化するとともに,得られた微粒子分散液のレオロジーを定量評価します.シミュレーション結果から凝集・分散プロセスにおける微粒子系の構造形成メカニズムを理解し,そのメカニズムを利用してプロセスを効率的に最適化します. 膜ろ過プロセスの最適化 ナノメートルからサブミリメートル程度の大きさの球形,あるいは非球形粒子分散液をクロスフローやデッドエンドで膜ろ過したり,大きさの異なる粒子を分級する場合,目標となる透過フラックスや粒子阻止率を生み出すプロセス条件の最適値を効率よく探索することが重要です.SNAP研究会では,与えられた膜構造とプロセス条件における微粒子と溶媒の運動をシミュレーションしてファウリング・ダイナミクスを可視化するとともに,得られた透過フラックスや分級精度を定量評価します.シミュレーション結果から膜ろ過プロセスにおける微粒子系と膜との相互作用メカニズムを理解し,そのメカニズムを利用してプロセスを効率的に最適化します. スピーディな着想を求める方へ ナノメートルからサブミリメートルまでの微粒子を含む液相プロセスの設計や制御を業務とする企業で,微粒子系の構造形成や微粒子分散液のレオロジーに関心があり,次のような要求をお持ちの方を対象としています.
SNAPファミリーSNAP-LSNAP-L (Liquid) は,バルク中や乾燥過程における微粒子系構造形成シミュレータで,球形粒子の他,棒状/平板状粒子を粒径比10倍までの範囲で取り扱います.溶媒運動は解かずに気液界面と粒子の運動を追跡して,粒子系構造形成の過程を高速に計算します.更に,乾燥後の粒子系構造(凝集体)の圧縮も実行可能で凝集体強度を粒子性状と相関づけられます.粒子に働く力として以下の通りです.
SNAP-F SNAP-F (Flow) は,流動を加えた時の微粒子系構造形成シミュレータで,SNAP-L同様2成分の球形粒子の他,棒状/板状粒子を粒径比10倍まで扱うことができます.粒子と溶媒の運動を同時に解くことで,微粒子分散液の凝集分散過程やレオロジーを評価できます.粒子に働く力として以下を考慮しています.尚,溶媒の運動と溶質の輸送/吸着を粒径以下の解像度で解いており,時々刻々の速度場と圧力場を得ることができます.
SNAP-LF SNAP-LとSNAP-Fが統合されたSNAP-LF (Liquid&Flow) は,流動-乾燥連成過程における微粒子系構造形成シミュレータで,濡れ性を考慮して球形粒子とパターン基板を取り扱います.溶液の運動と乾燥を同時に解くことで,塗布・乾燥過程における粒子系構造形成過程をより詳細に追跡します.粒子に働く力として以下を考慮しています.尚,レベルセット法とVOF法を利用して,気液界面を含む溶媒の運動と溶質の輸送/吸着を粒径以下の解像度で解いており,時々刻々の速度場と圧力場,及び界面の変化を得ることができます.
SNAP-P, SNAP-C SNAP-P (Polymer)は,粒子に吸着する溶質(高分子,界面活性剤など)が共存する液相微粒子系の構造形成を扱うシミュレーションモデルで,SNAP-F/LFに組み込まれます.粒子と溶液の運動と連動して,溶質に関して以下のことを考慮しています.
物理吸着は,粒子表面から溶質に作用する引力ポテンシャルにより導入します.また,斥力ポテンシャルに変更することで,負吸着(粒子近傍での溶質の減少)も考慮できます.溶質の移動は,溶液の運動と同様に粒径以下の解像度で解いており,時々刻々の溶質濃度場を得ることができます.
吸着層の重なり合いで粒子間に働く力について,粒子表面間距離と力の大きさを図1に示します.この粒子間力は粒子-溶質相互作用で決められますが,今後,溶媒/溶質-溶質相互作用の効果も加味できるよう発展させる予定です(図2).SNAP-F/LFにSNAP-Pを組み入れたとすると,以下のような過程で溶質吸着の効果を調べることが可能になります.また,拡張性のあるモデルのおかげで,壁面やろ過膜にも溶質吸着を考慮することが可能です.尚,このモデルや計算テクニックを電荷をもつイオン系に拡張することで,SNAP-C(Charge)の開発に繋がりリリース予定です.
SNAPの推奨動作環境
SNAPは OpenMP で並列化され,Linux上(RHEL/CentOS)で動作します. 開発工程における動作検証のコストを省くため,OSを統一しています. 会費内で PC5台までインストールでき,搭載コア数は課金対象になりません. 計算結果はSNAPshotで可視化して,付属の後処理プログラムで評価指標に焼き直すこともできます. 計算結果のデータ形式を公開していますので,別ソフトでも可視化やデータ評価が可能です. |